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『絵本力 SNS時代の子育てと保育』

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著者:浅木尚実
出版社:ミネルヴァ書房
出版年:2023年
出版社書籍案内ページ:https://www.minervashobo.co.jp/book/b620529.html

評者:小坂田 摩由(非会員)


 「SNS時代」と呼ばれる昨今、大人のみならず子どももスマートフォンやタブレットを常に携帯し、画面を食い入るように眺めている姿は当たり前になってきています。テレビの教育番組だけでなくYouTubeなどの動画サイトは、実質的に無限の刺激的なコンテンツを子どもに提供してくれる現代において最も都合の良い「子守り役」と言えるかもしれません。しかしそんな時代だからこそ、絵本のもつ力を保育に取り入れるべきではないでしょうか。本書はそうした立場から、乳幼児期の子どもの発達を紐解き、それぞれのタイミングで適した絵本と触れ合うことの大切さを説くものです。

 本書で印象的な言葉として、前半「理論編」第一章「絵本が育むひととの絆(愛着形成)」の「『絵本読んで!』は『大好き!』の同義語」という部分が挙げられます。筆者は数多くの研究を背景に、絵本は早期教育のツールではなく、親子が最も近い距離で触れ合ってコミュニケーションを取るために必要不可欠なものと捉えています。大人に自分の好きな本を「読んで!」と持っていく姿は子どもによく見られますが、それは子どもが大好きな人と幸せな時間を共に過ごしたいと願っていることの表れであると筆者は述べています。絵本は子どもにとっても、大切なコミュニケーションツールのひとつなのです。大好きな人の体温を身体で感じながら絵本を読み聞かせてもらう瞬間こそが、子どもと大人が信頼と愛着を深めるためには何より大切であることを本書は示唆しています。

 一方、絵本から子どもは生きるために必要なあらゆることを学びます。それもただ読むだけではなく、親子でスキンシップを取る中で生まれるものです。本書で取り上げられている過去の研究によれば、赤ちゃんにとって肌で触れるスキンシップは主観的かつ脳の広範囲に働きかける作用があり、すなわち赤ちゃんは肌こそ脳とも言えます。そのような時期の子どもを膝の上に乗せ、寄り添って同じ絵本を読むことで、乳幼児期の発達をより促進できると筆者は述べています。と同時に読み聞かせてくれる声と絵からものの名前を覚えたり、登場人物の頑張る姿から自己肯定感を高めたりといった、今後の人生に必要な物事を子どもは絵本から学び取ります。そのときにも、内容を知っている家族との楽しいやり取りの繰り返しや、自分も絵本の登場人物のように誰かから愛されているといった実感をもてるようなかかわりは欠かせません。

 本書後半の実践編では、実際に絵本を用いた保育と、そこから発展して子どもたちが展開していったオリジナリティあふれる遊びと保育者のかかわりについて、現場の保育者の言葉をふんだんに挟みながら解説されています。また第7章「知りたいを育てる」では絵本に対する視点を少し変え、コミュニケーションツールとしての活用を前提としたうえで、子どもが科学的なことがらに興味を抱いたとき、即座に対応できる学びの手段としての絵本の適切な活用方法についても紹介されています。具体的には、従来では図書館などで開催されているブックトークを保育現場に応用し、子どもたちが日々感じている様々な科学的興味に即した絵本を複数紹介する「ミニブックトーク」の実践について、筆者の指導する学生の実践事例を踏まえながら解説がなされています。

 ページフルカラーの本書には、誰もがかつては大好きだった『ちいさなうさこちゃん』『ぐりとぐら』など名作絵本の表紙や、絵本から発展した遊びを全力で楽しむ子どもたちの笑顔の写真も盛り込まれています。研究者の方々だけでなく、絵本を子育てに取り入れたいけれどどういったものが良いのだろう、と悩める人々のための参考書としても、きっと有益な一冊となることでしょう。

 


【評者紹介】

小坂田 摩由(非会員)お茶の水女子大学大学院 博士後期課程